技術・家庭科もの作り「青銅の鋳造」の工夫 「長野市教育」に投稿


T、はじめに

  鋳造とは金属を高温で液体にして型に流し込み、冷やして希望する形にすることです。これは木材にはない金属ならではの加工方法です。金属の他の加工方法としては「削り出し」や「プレス」等がありますが作れる形には限界があります。技術の授業では金属作品は主に金鋸やヤスリを使った加工を扱っています。すると「これ融かして流し込めないの?」と生徒によく言われます。また数年前、私は真鍮の削り出しでバックル作りを始めました。そんな折り、業者さん宅で休日に鋳造による青銅鏡作りを教えていただき、その魅力に一気にはまり込みました。そして私は「鋳造でバックル作りをできないか?」と思いました。バックルならば毎日の生活の中で使えます。自分の気に入ったデザインが形にできれば興味関心もわき、使うことが作品展示発表にもなり励みにもなるのではないかと考えたのです。
 鋳造はまず自分の希望する形を加工しやすいプラスチックや木で作る原型作りから始まります。次にその原型を使って鋳型を作ります。融解金属の熱に耐えられる材質で原型の型をとるのです。そしてその鋳型に融解金属を鋳込むのです。

U、問題点

 「鋳造は楽しい。しかし難しい。」のが問題だ!!
 今、授業で扱っているのは青銅鏡“ア”である。画期的な素晴らしい教材なのだが、いくつか改良すべき点がある。
問題1、鋳型(砂で作る)を固めた後、そこから原型を回収するときに砂型がボロッと壊れてしまう失敗がよく起こる。これによって大人数を相手にした授業では進度の差がより大きくなり、生徒のやる気や時間の損失につながる。一回固めた砂型は再利用ができないため、生徒が失敗を重ねることにより材料費が膨らみ結果的に親への負担も増す。
問題2、設備が大がかりになってしまう。というのも、授業で使っている青銅を融かすための炉は大人二人で やっと運べる大きさであるということ。また砂型(鋳型)を作るときの工程に於いて極力、振動を避けなければならないところと木槌で叩き固めるところがあるため、一人一つの作業台が必要になること。更に硬化を待つ間、作品を動かさないで保存できる場所も必要となり、限られた技術室の中ではスペースに問題がある。
問題3、従来の青銅鏡製作の方法では輪郭は円であり表面の模様も凹か凸かの表現しかできない。いわゆる“ゴム印”。より複雑な輪郭の作品ができないか?表面の模様も凹凸だけでなく斜面や曲面を取り入れた形を作れないか。

V、対策・方法

 前述の問題1の原因としては以下の@ABが、問題2の原因としてはCとDが考えられる。
@原型作りの時に砂型の弱さの見通しを持たず無理な形の原 型の設計を行った。
Aそもそも砂を固めるという方法が弱い。
B砂型との相性が悪い素材を原型として使ってしまった。
(これは、新しく後述“D”の追究の過程で生じた問題。)
C青銅の鋳込み温度約700度が扱うには高すぎる。
D砂型の砂が扱いが難しすぎる。
    ・・・・・そこで次の対策を考えた。
A:AとDへの対策として鋳型に粘土を使ってみる。
B:Cへの対策として鋳込み温度が280度ですむピュータ
  ーを使ってみる。
C:@への対策として感光樹脂板のフィルム作りの方法とし  て「切り絵」を取り入れてみる。
D:問題3への対策としていろいろな素材を原型として使っ  て試してみた。その過程で新たな問題“前述B”が出て  きてしまったが、鋳型、原型、離型剤の素材を工夫して  いく。

W、これまでの成果

A:失敗が少ない鋳型とは

 粘土を鋳型として使ってみた。最初は乾燥が不十分で鋳込みの時水蒸気が発生し、小さくだが気泡が液体になった金属の中から出てきた。粘土は充分すぎる乾燥が必要である。それに気がついてからは石膏焼成用の電気炉を使った。次は(中古の)電気オーブンでの乾燥を考えている。粘土で鋳型を作ると何度でもやり直しができるので問題解決的な学習を行える可能性も出てきた。ただ、粘土は鋳込みの時に融解金属から発生するガスを抜くのが困難だという問題もある。

B:より手軽に安価に

 鋳込み温度の低いピューターを融かす設備はキャンプ用のバーナーとステンレスカップで充分である。本研究でも原型や鋳型は生徒と同じ方法で試作しそれが本当にいい結果を出すのかといった確かめはピューターで行ったものもある。
 しかしピューターにも欠点がある。また人類が初めて加工した金属である青銅へのこだわりも持っていきたい。
「手軽にできる」と言っても安全面への配慮は充分すぎるということはない。考え方としてはテンプラを揚げるときの注意をそのまま取り入れればいいと気がついた。「鋳造には水は厳禁」というところもそっくりである。しかし、もし「やってみようか」と思われた方はぜひ経験者と直接話されることをお勧めする。

C:鋳型作りで失敗しない為の設計の方法

 原型のデザインに「鋳型(砂型)が崩れやすいものとそうでないもの」があった。生徒にどのように設計させたら鋳型作りで失敗がおきにくいものができるかを考えた。
 青銅鏡アでは感光樹脂板を使っている。これは影になるフィルムを重ね紫外線を当てて水洗いをすると紫外線の当たらなかった部分だけが溶けて凹になるというものである。しかし生徒がペンで細い黒い線を描くとそれは砂型では細い凸になってしまい崩れやすくなってしまう。従来の方法では生徒の描いたデザインをOHPシートにコンピュータのプリンターで印刷しそれをフィルムとして感光樹脂板に焼き付けを行っていた。“エ”のバックルでも感光樹脂板を使ったが今回は切り絵でフィルムを作ってみた。透明シートに原画のコピーを貼り、それをナイフで切っていっては、剥がした。すると細い黒い線を描くことが切り絵を作る時点で困難なため、前述のような砂型で失敗するということが避けられた。加えてスキャナやコンピュータがなくてもフィルム作りができるということも確認できた。
 この感光樹脂板はもともとハンコ屋さんが使っていたものだったそうである。従って表面の模様は凹か凸かの形しかできない。次に原型の材料をいろいろ試してみた。

D:より自由な形が作れて失敗がない原型とは

※まとめ お勧めは彫刻の三角刀を使いたいのなら年賀状用の版画板。ナイフを三角刀代わりに使えるのなら捺印用ゴム板である。

X、これから

 授業で鋳型に粘土を使う為には一度に多くの粘土をより安価に乾燥させる方法が必要である。それを探っていきたい。

Y、最後に

 5000年後、生徒や私の作った金工作品が発掘され博物館に並びます。こう、ご期待!

http://www58.tok2.com/home/pallhkari/

Yahoo Japanで「鋳造ができる」でも検索できます。


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